外传

0;生禸1;パレード

《狼不会入眠》 · 支援BIS · 5642 字

一周年御礼企画による外伝です。今回は、ぽよん様ご指名のパレードの外伝です。ご要望は、戦いの調教をされていなかったパレードがレカンから受けた訓練、ということでした。

1

森というのは不思議だ。

例えば今目の前にあるこの木は、幹のしわも枝の付き方も葉の形と色も、もとの世界ではみたことがない。

今ブーツで踏んでいる草にしても、もとの世界ではみた記憶がない。

そのように、一つ一つの木や草は、みしらぬものであるのに、森全体の雰囲気は、どことなく覚えがあって、懐かしい感じがする。

こういう森は、若干暖かい気候の土地でみかける森だ。

そうしてみると、異世界であるといっても、木や草が育ち森を形作るその働きには、結局同じような規則が働いているのだろう。

早足で森のなかを進みながら、レカンはそんなことを考えていた。

(それにしても、こいつ、どこまで行く気だ?)

レカンの前をパレードが走っている。

パレードは長腕猿ザンバルドゥだ。ただしその体躯は大柄で、普通の長腕猿四匹分ほどもある。身長は普通にしていればレカンよりわずかに低いくらいだ。つまり並のおとなより大きい。体重はレカンの倍はあるだろう。

そんな巨体なのに、木々の入り組んだ森を、ひょいひょいと進む。

長腕猿も、このぐらいの大きさの個体になると、木の上を移動することはせず、地上を進む。木に登るのは他の生き物を襲うときや、逆に他の生き物から逃げるときぐらいだ。

パレードは、調教師ドニの飼い猿だ。パレードを森で自由に遊ばせるというのが今回の依頼である。

だからパレードが森を走るのは、それはそれでかまわない。

ただし依頼には、戦闘もさせるとあった。だからパレードを魔獣と戦わせなくてはならないのだが、この魔獣はひたすら森の奥に進んでゆく。さきほど一度立ち止まって餌を食べたが、そのあとはただただ走っているだけだ。

レカンはいきなり速度を上げて、パレードの前に回り込み、進路をふさいだ。こんな森のなかで長腕猿より速く走れるのだから、レカンの身のこなしは普通ではない。

レカンは腕利きの冒険者なのだ。そして〈立体知覚〉というスキルを持っている。そのスキルと高い身体能力のおかげで、こんな森のなかでも素早く移動することができるのだ。

ちなみに、朝ドニの家を出発したときには、パレードの餌が入った大きな袋をかついでいたが、それは〈収納〉にしまってある。

「おい。どこまで行く気だ」

次はもう少し手応えのある相手を探そう、とレカンは思った。

「やれ」

ドニに問いたださねばならないことがあったからだ。

しばらくなでたあと、パレードはうなり声を上げた。

数多くの魔獣がいる。

案の定、パレードに運動させるという依頼はみせかけのもので、パレードには森の奥深くに逃げるよう、ドニは指示を与えていたのだ。それは、パレードに命懸けの戦いなどさせたくないからだという。

「〈風よ〉! 〈風よ〉!」

「来い。こっちだ」

投げ飛ばされた鼻曲は大木の幹に激突し、悲鳴を上げて落下した。

逃げようとはしない。逃げられないことはわかっているのだ。

(こいつ。鍛えれば強くなる)

パレードは、長い両腕を頭に巻き付けるようにして、悲しそうな目でレカンをみつめた。

レカンはますます闘気をふくらませる。

パレードが標準的な長腕猿四匹分の体躯を持っているように、今度戦う木狼は、標準の四倍の大きさと四倍の強さを持っているかもしれない。それが二頭となれば、傷を負ったまま戦わねばならない場面もあるだろう。

この日は早めにドニのところに帰った。

最初はびくっと反応した小さな魔獣は、されるがままになっている。

しかし今度の勝負に出てくる木狼は格別に強い木狼であるはずだ。

だがレカンはいささかもひるまない。

たぶん相手があまりに弱すぎた。

2

「ぐうあおおおおうっ」

鼻曲はまっすぐにパレードに突進した。

そう考えて、傷を負ったパレードに、この日さらに二頭の魔獣と戦わせた。

「ぶるう?」

高い木の上の枝に飛び乗って、下の様子をみた。

「ぶるるう?」

いる。

すぐに身を起こしたそれは、小さなこどもほどの大きさの魔獣だ。黒目がくりくりとしていて、上顎に生えた二本の牙は、湾曲しつつ下方に伸びている。ひどく尻尾が大きい。

「ぶるぶる?」

3

パレードが首をかしげている。

パレードは長い両の手を前に突き出し、跳びかかってくる鼻曲を受け止めると、斜め上に投げ飛ばした。

レカンは、ドニと話し合い、戦いに備えてパレードを訓練するという仕事を引き受けたのだった。

がくんと頭が揺れ、パレードは怒ったような、困ったような表情で振り向いてレカンをにらんだ。

パレードはそれをみおくっている。

目の前には何もいないのだから、この反応は無理もない。

追撃のチャンスなのに、パレードは動こうとしない。

「戦え」

五日間で三十回ほど戦わせた。

パレードはおびえた目になり、体を縮ませた。

そしてパレードのいる場所の直前で、レカンは真上に跳躍した。

鼻曲バンブーだ。レカンにはなじみの深い魔獣である。

レカンは地上に降りて、パレードの様子をみた。

(どっちの世界でも猿は猿だな)

「ぐるう。るる」

右腕に傷を負って、少し血が出ている。先ほどの激突で、鼻曲の牙にやられたのだろう。

パレードがレカンの右をすり抜けようとする。

パレードが肩を怒らせて伸び上がり、牙を剝きだして威嚇してきた。

「きゅる? くきゅっ?」

というわけで今日は戦闘訓練のために森に来た。

短い移動で目標に遭遇した。

起き上がることができず、痙攣している。

小さな魔獣は、まずパレードをみて、次にレカンをみた。

「誰が仲よくしろと言った。オレは戦えと言ったんだ」

「ぶるう?」

「おいこら」

もちろんそんなことで戦いをなくすることはできないし、逃げたパレードもいつかは帰ってこなければならないのだから、これは浅はかな考えというほかない。

小さな魔獣は、くるりと向きを変え、森の奥に去っていった。

そして小さな魔獣の頭をなでた。

レカンの声にうながされて、パレードは右手を伸ばした。

普通の木狼よりは大きいぐらいの鼻曲だったが、パレードはまったく恐れていなかった。相手の突進を受け止めた腕力も、投げ飛ばした勝負勘も、なかなかのものだ。

ドニとしては可愛い猿にそんな戦いなどさせたくないので、代表選手であるパレードを逃がすことにしたのだ。

ことは領主の館の護衛を、長腕猿と木狼のどちらがするか、という問題だった。

思わずパレードが後ずさる。

4

ここのところずっとヴォーカの町にある領主館の護衛は木狼だった。ところが領主の気まぐれなのか、昔のように長腕猿と木狼を戦わせ、勝ったほうを護衛とするということになった。

レカンは〈生命感知〉の能力で周囲を調べた。

ひるむどころか、残された右目を、くわっとみひらいて、パレードに闘気をたたきつけた。

レカンはすっと移動してパレードの通り道をふさいだ。

傷の手当てをしてやろうかと思ったが、やめた。

「風よウィゼル」

今度は左を抜けようとした。

(ほう)

パレードが小さくうなずいた。

〈生命感知〉で魔獣の気配を探り、さらに〈立体知覚〉で詳細を調べた。

ヴォーカ領主が支配する村のうち、ルモイ村では長腕猿を調教しており、パーツ村では木狼を調教している。

こういう姿勢を取ると、レカンよりも身長が高い。パレードは強力な魔獣だ。すさまじい迫力である。

レカンは右足でパレードの背中を踏んだ。

なおも容赦なく、レカンがにらみつける。

上方の木の枝にいた一匹の小さな魔獣が、突風に吹かれて落ちてきて、レカンとパレードのあいだに墜落した。

「お。いいのがいた」

小手調べに、ごく小型の敵を選んだ。

「お前、ここで待ってろ」

パレードは無表情に小さな魔獣をみおろしている。

この瞬間、二人の上下関係は確定したのである。

レカンは鼻曲の近くに移動した。レカンの臭いを嗅いだ鼻曲は、レカンを襲うべく突進してくる。その鼻曲を、レカンはパレードのいる場所に誘導した。

またもレカンは素早く移動して通り道をふさぐ。

小さな魔獣が答えた。

もはやパレードは頭を完全に隠し、レカンに尻をみせて地に這いつくばっている。降参のポーズだ。

それでもレカンは闘気を静めず、圧倒的な武威でパレードを威圧する。

レカンはこぶしでパレードの頭を打ちすえた。

本番の勝負では、パレードは二頭の木狼を相手に戦わなくてはならない。木狼はヴォーカの町では珍しくないので、レカンは標準的な木狼の大きさをしっているし、およその強さも見当はつく。

5

(やるな)

いずれもレカンが対戦相手を引っ張ってきてパレードと戦わせた。

パレードのほうから戦闘に入ったことは一度もない。

何度もレカンはパレードに相手のところに行って戦うよう命じたのだが、言うことを聞かない。

もっともレカンは獣を使役する方法は知らないし、パレードに人間の言葉が通じるわけもないのだから、これはしかたのないところでもある。

それでもよかった。

本番の戦いでは、あちらから攻撃してきてくれるだろう。

どうしても受け身の戦いになってしまうが、それならそれでいい。

むしろ得意な戦い方を磨いたほうがいい。短い時間のなかでの訓練なのだ。万能型の戦士を育てるひまはない。

最初はあまり反応がよくなかったパレードだが、襲いかかる敵をうまくいなしたり、攻撃をかわすすべを覚えていったりした。

もともと力はあるし、目もいいし、意外に動作は素早い。そして長腕猿というのはとにかく器用な魔獣だ。もしかしたら武器の使い方も覚えられるかもしれない。今回はそういう訓練はしないが。

それと物おじしないのがいい。

かなり強力な相手もぶつけてみたが、パレードはひるまない。相手の威嚇にもおびえず、冷静に攻撃をかわしている。そして隙をみて反撃する。レカンの狙い通り、パレードはぐんぐん戦闘力を上げた。

それはいいのだが、一つだけ問題がある。

殺さないのだ。

パレードは敵を殺さない。相手がこちらを攻撃しようとするかぎり、手厳しい反撃を加えはするが、敵が戦闘能力を失うか、あるいは失ったふりをしていると、それ以上追撃しない。

(そんな甘いことで勝負に勝てるわけがない)

(明日はそこだな)

6

六日目には、かなりの強敵と戦わせた。

だが特訓のかいあって、パレードは相手の攻撃パターンを読み、傷を受けないように戦闘を続け、相手の隙をついてつかまえて投げ飛ばした。

三度目に投げ飛ばしたときには相手の頭が岩にぶつかった。

「そこをどけ! オレが殺しの見本をみせてやる」

レカンは目に力を込めた。

(了)

パレードは真剣なまなざしでレカンをみつめている。

「よかろう。殺したくないなら殺さなくていい。だが、負けることは許さん。わかったか」

「その魔獣をオレに殺させない、とお前は言っているのか?」

「追撃しろ」

しばらく、緊迫のにらみ合いがつづいた。

「ぶるう」

パレードも息を吐きだした。怖かったのだろう。

だがパレードは、レカンの予想もしなかった行動に出た。

なんとパレードは、相手の魔獣とレカンのあいだに立ち、大きく両腕を開いて、レカンに相対したのだ。

のそり、とパレードが動いた。

それから十日目まで、つまり時間切れぎりぎりまで、レカンはパレードを鍛えた。狼や猪の系統の魔獣を中心に、攻撃力の高そうな相手を、二頭ないし三頭呼び込んで戦わせた。

初日のパレードなら、これだけの闘気をぶつけられたら、縮こまってぶるぶる震えるだけだったろう。だが今日はちがう。今日はおびえながらもあとに引かず、レカンと向き合っている。

だが考えてみれば、木狼を殺さなければならないわけではない。勝負に勝ちさえすればいいのだ。相手を戦闘不能に追い込めばそれでいい。

「ふおっ」

パレードがうなずいた。まるでレカンの言うことがわかったかのように。

最初は複数の敵と戦うのにとまどって傷を受けていたが、段々に慣れて、敵に敵をぶつけたり、敵の体をつかんで別の敵の攻撃を防いだりすることができるようになった。

任せておけ、と言っているように聞こえた。

「ふっ」

調子に乗って、ちょっと鍛えすぎたかもしれない。

「ぶるふう」

(お)

レカンは命じた。

パレードは動かなかった。

「よし。これなら大丈夫だ。どんな木狼が出てきても、お前なら勝てる」

「さあ、やれ」

そのままパレードは、横たわって痙攣する相手をみている。

「殺せ」

だが、パレードは動かない。

レカンはパレードをにらむ右目に、殺気をそそいだ。

「ふふ。生意気に。お前、魔獣のくせに、不殺の誓いでも立ててるのか?」

「殺させない、とお前は言っているのか?」

「不殺の魔獣か。笑わせてくれる」

7

体中を緊張させ、レカンの前で踏みとどまっている。

レカンは相手の魔獣の近くに歩み寄り、爪で攻撃するしぐさをしてみせた。

それよりも、レカンの強大な殺気に耐えきれるほどになったのだ。そのことのほうが重要だ。もはやどんな強力な木狼と戦っても、パレードが臆することはないだろう。

(うまいぞ)

レカンは殺気をゆるめた。

「お前が傷つかずに勝てば、ドニも喜ぶ。ドニの商売もうまくいく。頑張れよ」

その言葉の意味がわかったわけではないだろうが、パレードは首を回してじっとレカンの目をみつめた。

パレードが小首をかしげる。レカンが何を話しているのかわからないのだ。

「ぶるふう!」

もともとパレードの潜在的戦闘力は高い。特に腕力の強さ、腕の太さ、長さ、硬さは驚異的だ。まともに殴られたら、レカンでも大きなダメージを受ける。ちょっと強い程度の木狼なら、一撃で死ぬかもしれない。がまあ、それならそれでいい。

READING MENU

目录与设置

登录后加入书架章节报错

阅读设置

自动保存
字号
20px
行距
标准
背景
日间

第一卷狼不会入眠 1

  1. 01作品相关
  2. 02第01话 黑S洞穴的尽头
  3. 03第02话 护卫委托
  4. 04第03话 拜师测验
  5. 05第04话 药草采取
  6. 06第05话 贡布尔迷宫
  7. 07第06话 魔N传说
  8. 08第07话 贡布尔迷宫再访
  9. 09嘉卡王国地图和各种设定

第二卷狼不会入眠 2

  1. 01插图
  2. 02第08话 药师失踪
  3. 03第09话 队伍组成
  4. 04第10话 寨卡兹商店
  5. 05第11话 凯雷斯神殿
  6. 06第12话 施疗师诺玛
  7. 07第13话 诱拐
  8. 08第14话 不请自来的学徒

第三卷狼不会入眠 3

  1. 01插图
  2. 02第15话 N骑士赫蕾丝
  3. 03第16话 尼纳耶迷宫上层
  4. 04第17话 尼纳耶迷宫中层
  5. 05闲话1 毕休露夏普塔之风
  6. 06第19话 银狼讨伐
  7. 07第20话 金级升格
  8. 08第21话 领主馆的决斗
  9. 09第22话 魔法指导员朵萝丝
  10. 10第23话 王都来的使者
  11. 11第24话 希拉暗杀
  12. 12第25话 丝夏娜的纯Q
  13. 13第26话 药圣来访
  14. 14第27话 药神问答
  15. 15闲话2 学士珊朵拉

第四卷狼不会入眠 4

  1. 01插图
  2. 02第28话 拉芬的岩棚亭
  3. 03第29话 茨波鲁特迷宫之挑战
  4. 04第30话 共同探索
  5. 05第31话 茨波鲁特迷宫的秘密
  6. 06第32话 柯古陆斯领主的委讬
  7. 07第33话 被隐藏的阶梯
  8. 08第34话 迷宫事务统括官伊莱莎
  9. 09第35话 工库鲁家的继承人
  10. 10第36话 贤人王之血
  11. 11第37话 第121阶层的死斗
  12. 12第38话 斑恰拉家之凋落
  13. 13外传 拉斯库

第五卷狼不会入眠 5

  1. 01插图
  2. 02第40话 白雪花之姬
  3. 03外传 鸦库鲁班多
  4. 04第41话 赫蕾丝与诺玛
  5. 05第42话 求婚决斗
  6. 06第43话 多穴迷宫
  7. 07第44话 伴侣
  8. 08外传 杰利可

第六卷狼不会入眠 6

  1. 01插图
  2. 02第45话 红莲之魔N
  3. 03第46话 白炎狼
  4. 04第47话 背叛者
  5. 05外传 艾迪达
  6. 06外传 波德
  7. 07外传 深皿
  8. 08外传 艾札克
  9. 09【文库】闲话剧透(1~3)
  10. 10第48话 复活

第七卷狼不会入眠 7

  1. 01插图
  2. 02第49话 御前比武
  3. 03第50话 幽夫动乱
  4. 04第51话 魔王降临
  5. 05第52话 腐禸王之迷宫

第八卷狼不会入眠 8

  1. 01插图
  2. 02第53话 王都再会
  3. 03第54话 兽人帝国
  4. 04第55话 双雄激战
  5. 05最终话 传说的开始

第九卷狼不会入眠 外传

  1. 01月夜的访问者
  2. 020;生禸1;パレード正在阅读
  3. 03鸦库鲁班多
  4. 04艾迪达
  5. 05波德
  6. 06杰利可
  7. 07艾札克
  8. 080;生禸1; 爆裂犬
  9. 09拉斯库
  10. 10特雷门
  11. 11梦幻对决 系列一
  12. 12梦幻对决 系列二
  13. 13梦幻对决 系列三
  14. 14梦幻对决 系列四
  15. 15梦幻对决 系列六

可使用键盘 ← / → 翻章

章节内容有误?提交反馈