第四话「天才料理人シロ 降伏したベジタ村」
《缇蕾娅的烦恼》 · 里奈使徒 · 4032 字
「お前達、これ以上抵抗すれば村が壊滅するぞ。このバ……男は手加減をしらんからな」
エディムが宣言する。
確かにオルティッシオの力は凄まじい。
ギガンド様を始め村の並みいる戦士達を軽々と倒したのだ。オルティッシオは、獣人族最強である現族長のベジタブル様より力は上かもしれない。
オルティッシオに逆らえば、村は壊滅する。それは村の住人全てが痛感しているだろう。
ただ、村人達は全員無言だ。
オルティッシオ達の問いに応えず、顔を俯かせじっとしている。
当然だ。
強者こそ正義!
狼フェンリル族の掟である。
オルティッシオが人族であろうとそれは関係ない。普通の降伏勧告であれば、絶対的強者のオルティッシオに従うのもやぶさかではないのだ。
だが、オルティッシオの物言いがあまりに酷すぎる。
誇り高き戦士、狼フェンリル族を家畜呼ばわりするのだ。
下くだるだけであれば、まだ納得できる。オルティッシオの下であろうとも、戦いを満喫できればよい。
家畜呼ばわりの奴隷扱い。戦士として扱われないのは、狼フェンリル族の沽券に関わるのだ。
「返事はどうした?」
「……」
村人達は、答えない。
肩をプルプル震わせ怒りを表している者も多くいる。だが、行動に移せない。逆らえば殺されるとわかっているから必死に耐えている。
絶対的強者に刃向う気はない。でも、おいそれと家畜になる気もない。
「どうした? そんなものか?」
怪物だ。
一呼吸をし、オルティッシオがギロリと睨む。
「エディム、なぜ止める!」
とうとう堪忍袋の緒が切れたようだ。
一人で数百の敵を打ち破り、数多の集落を傘下に組み入れた。
中途半端な状態である。
あの爆撃の中、ダメージがない!?
「エディムよ、収入うんぬんの問題ではない」
「貴様らぁああ! やっと見つけたぞ。これ以上の狼藉は許さん」
あ、あれは……ベジタブル様!
オルティッシオが殺気を溢れさせ今にも飛び掛からんとしていた時、
「ま、待て、待ってくれ。降伏す――ぐはっ!」
力の差をまじまじと見せつけられたベジタブル様は、
「エディム、貴様が処刑されようと知ったことではない」
オルティッシオはベジタブル様達の凄まじい怒気にも、まったく意に介さない。
ベジタブル様達の強烈な魔法弾が地面に激突する。
「誇り高き戦闘集団、狼フェンリル族を家畜呼ばわりとは、舐められたものだ」
オルティッシオに勝てるとしたらもうこの集団しかないだろう。
はぁ、はぁと息を乱したベジタブル様が見守る中、
「……応えんか。もったいなくも邪神軍の奴隷として働かせてやると、貴様らのような屑に慈悲を与えてやったというのに」
皆、応えない。
このオルティッシオの覇気に比べれば、ギガント様の怒気など子供の癇癪かんしゃく程度に思えてしまう。
ベジタブル様達の攻撃がやむまで必死に地面にかがみ、やり過ごす。
全て命中していたにもかかわらず、オルティッシオは平然としていた。
どうやらベジタブル様は、オルティッシオ率いるジャシン軍が獣人の町で暴れ回っているのを知り、部隊を率いて追っていたようだ。
凄い。
「ひ、ひけぇ――ぐふっ!」
オルティッシオは正真正銘の大怪物だ。
屈辱に耐えていたベジタブル様達が怒りに任せて飛び出す。
「はぁ? あんたどれだけ私を――むぐっ!」
「いや、収入の問題重要でしょうが! あなたが今月のノルマを果たせなかったら、私まで責任を取らされるんですよ。なぜか皆私とあなたがセットで考えられているんです。また、今月も未達なら処刑もありえるというのに……」
エディムが怒れるオルティッシオの間に入ってきた。
ベジタブル様は、全身の毛を逆立てて激怒している。まさに烈火の如くだ。
狼フェンリル王にもっとも近いと言われたベジタブル様を筆頭に黄金世代と言われた獣人精鋭部隊、各村のスーパースターが勢ぞろいしたオールスターチームである。
オルティッシオを囲む、四方八方からの攻撃だ。
「む、新手か。都合がよい。他村に行く手間が省けた。貴様らも家畜として飼ってやる」
「オルティッシオ様、落ち着いてください」
お、恐ろしいほどの殺気……。
オルティッシオが苛つき周囲を見渡す。
「ふん、戦闘集団? 笑わすな。貴様らは家畜だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「だまれぇええ! これ以上の侮辱は許さぬ」
たんたんとマイペースだ。
オルティッシオは、悠然と立っていた。
「いいか、恐れ多くもティレア様のご尊名をお出ししたのだぞ。本来、拒否など天変地異が起ころうとありえん。嬉々として頭こうべを垂れるのが筋だ。それをこやつら屑虫は!」
オルティッシオは、やれやれと心底軽蔑したように言う。
「ふぅ~無礼千万だな。殺すか」
「ひ、ひぃ!」
退却を指示したとたんオルティッシオに胸を手刀で貫かれてしまった。
うぁわあ!
数々の伝説を持つ獣人族最強の戦士が現れたのである。
ベジタブル様の怒気が強まる。
それにキロロ村のヤルアシ様、ヤリアワ郷のサイウィクゥウ様もいる。それに反目していた狐族の頭目ファンファン様まで一緒だ。
僕も昔、遠目にお見かけした事がある。
「あぁ、狼フェンリル族の平和を脅かしおって。貴様らによって滅ぼされた村々の恨み、ここで晴らす」
全ての獣人達が驚愕の声を漏らしている。
その眼光に村の屈強な戦士も含め、全員が恐怖に打ち震えていた。
オルティッシオがエディムの口上の途中で口を鷲づかみにした。エディムがもごもごと何か言いたげだが、オルティッシオがそれを許さない。
とても目を開けてられない。
「ば、ばかな」
僕は水分を取ってなかったから助かったけど、中には失禁をしている者もいるだろう。
さすがのベジタブル様もわなわなと震えている。
逆にベジタブル様達を【家畜】と言って挑発している。
狼フェンリル族の誇りを見せるといったベジタブル様の言葉は伊達じゃない。村全体に地震が起こり、雷が降り注いでいるかのようである。
「いくぞ、狼フェンリル族の誇りを見せてやるわ!」
瞬間――凄まじい爆音を上げ、砂埃が舞った。
先代、先先代の族長でも成し遂げられなかった獣人の統合という偉業を成し遂げた。
思わず悲鳴が出てしまった。
下を向いてうつむいている。
村の入り口より怒声が響いた。
絶え間なく降り注ぐエネルギーの嵐だ。
そして……。
「オルティッシオ様、少しは学習してください。何度村を壊滅させたら気が済むんですか! あなたが暴れて、どれだけ収入が激減したと思っているんです」
ベジタブル様が殺され怯んだヤルアシ様に対し、オルティッシオは強烈な回し蹴りを放った。
蹴りを受けたヤルアシ様は、十数メートル離れた大木のところまで吹っ飛ぶ。ヤルアシ様は、あばら骨が突き出て白目を剥いて絶命していた。
それからは一方的であった。
ファンファン様以下、村の頭目達が一撃でオルティッシオに仕留められていく。
……終わった。
ドスンと大音量が響く。
最後に残ったサイウィクゥウ様が地面に倒れ伏したのだ。
これで獣人最強の精鋭部隊は、全滅である。
ベジタブル様達、オールスター集団でも倒せなかった。
「くっくっ、誇ほこりを見せるまでもなかったな」
オルティッシオが自身の指についた血を舐めとりながら嘲笑する。
村の獣人達は、あまりのショックで呆然としていた。
「ん!? そうか。こやつらは砂埃を上げて埃ほこりを見せたかったんだな。くっくっ、あっははははは!」
オルティッシオは、獣人達の屍の前で高らかに笑う。
そこには死んだ戦士に対する尊厳は微塵もなかった。誇り高き獣人には耐えがたい光景である。屍には獣人族最強の戦士ベジタブル様も含まれているが、誰も文句を言い出せない。
「いやいや、オルティッシオ様、面白くありませんよ」
そんな中、エディムが首を振りながら否定する。
「なんだ、エディム? さっきからいやにつっかかってくるな。私に不満でもあるのか?」
「……今更それを問いますか。あるに決まっているでしょ」
「なんだ。何が不満なのだ?」
「それで返答を聞いていなかったな。お前達、家畜になる決心はついたか?」
強者に従うという獣人の本能が叫ぶ。
「それより、エディム、こやつら歯ごたえがなさすぎる。これでは、私が出張るまでもなかったな」
「忙しい? 貴様は何も理解しておらん。この討伐は、邪神軍の、ひいてはティレア様の天下統一の一助となるのだ。それを忙しいなどと軟弱な言い訳をするな!」
皆が皆、地面に頭を擦り付けて土下座した。
選択肢は一つしか残されていない。
エディムは、肩を上下させて怒りを露にしている。
「うぅ、こ、殺す。絶対殺す」
それからエディムとオルティッシオの問答も終わり、
「「こ、降伏致します。どうか命ばかりはお助けを!!」
「わかりませんか!」
これ以上、返答を引き延ばせば、村ごとオルティッシオに滅ぼされるだろう。
オルティッシオが改めてベジタ村の住人に問う。
あのオルティッシオに反抗できるエディムは凄い。
やっぱり人族のえらい貴族って人なのかもしれない。
「だから、言ったじゃないですか! ここは私一人で十分だって! この忙しい中、わざわざ手伝ってあげてるんですよ。少しは信頼してください」
「くっ! ではいいます。私、すごくすごく忙しいんです。それなのに、なぜ、毎回毎回、あなたの手伝いをしなきゃいけないんですか? まじでティレア様に訴えますよ!」
「わからんから聞いているのだ。貴様はバカか?」
「ふん、貴様のような半端者では、不覚を取る恐れがあるからな。これ以上、私の足を引っ張られては困る」
凄まじいほどの闘気の塊をぶつけられ、吹き荒れる暴力の嵐も見ている。
何より獣人最強と唄われるベジタブル様が殺されるところを真近で見たのだ。
「そ、それはそうですけど……」