第62話「果然是緹蕾婭吧1」0;生禸1;
《緹蕾婭的煩惱》 · 裏奈使徒 · 8670 字
スー、スー。
むにゃ、むにゃ。ボコ。
ボコ!?
うっ!? ここどこだ?
うっすらと目を開けてみる。
ボコボコと泡が出ていた。
息を吐き出すたびに泡がブクブクと、景色もゆらゆらと揺れている――って水!?
俺、いつのまにか水の中にいるぞ。
ぬぅおぉおお! 溺れる、溺れる!
手足をバタバタさせると、こめかみに配線がついているのに気づいた。
なんだ? どういうことだってばよ!
いったい俺の身に何が起こったんだ?
バッチョ部隊に敗れて捕虜になったとか?
これって、水攻め?
いや、待て、待て。結論を下すのはまだ早い。
記憶をたどろう。
確か俺は……。
バッチョと一騎討ちをするはめになって。
黒兎馬に乗って辭世の句を詠んでたら、間一髪、エディムが戻ってきて。
そんでもって、そのエディムが一騎討ちでバッチョを倒してくれて。
「オルティッシオ、それは何故だ? 我は早急にお姉様にご復帰して頂きたい」
バッチョとの戦いで疲労の極限に達してたんだろう。不安と緊張の連続だったからね。なんらおかしいことではない。
配線が切れて感電しないかな?
メディカルマシーンがどうのと。
殺す気か?
「オルティッシオ、騒々しい。お姉様がご休養中だぞ。靜かにしろ!」
三時間でもやばいのに。
もちろん前世、漫畫の話だよ。ちょっとしたネタだ。こいつらは、中二言語の會話をすると喜ぶからね。リップサービスの一環で話したにすぎない。
口に手を當ててみると、妙な感觸がした。
でもね、悪意がないから餘計にたちが悪い。普通にベッドにでも寢かせてくれてたらよかったんだ。
ティムの聲が水槽越しに聞こえた。決定的だね。
あるいは、壊れて水が吸入器から逆流したりとか?
お、おま、それ……。
こいつらは、そんな衰弱した俺を水槽にぶち込んだのである。
戦いは勝利したのである。
じゃあ捕虜にされたわけでもないのに、この狀況は一體?
この水槽は、見るからにメカニックな作りになっている。本格的な裝置だ。電流が流れているかも?
間違いない。ここは邪神軍地下帝國の一室だよ。確か科學室だった気がする。ティムが色々発明した魔法具が置いてあるところだ。よくよく見ると、ヘンテコな機械がところ狹しと置かれてあるし。
「カミーラ様、ティレア様はいつお目覚めになられるのでしょうか?」
というか、ティムの回覆魔法でもいいよね?
嫌な予感はひしひしと感じてたけど、これで確信に変わった。
「あぁ、少し見直したぞ」
正気の沙汰ではない。
俺はどうもお店の前で気絕してたらしい。
これが集団心理という奴なのか。誰もおかしいとは気づかない。
嫌な予感がする。
なんでよりにもよって、こんな事故を誘発しそうな方法をやっちゃうかな。
三時間!
水槽越しに見える外の風景……。
誰か早急に水槽から出すという意見は出ないのか?
俺の思いとは裏腹に、ティム達はピントのずれた會話を続けている。
ガデリオ部隊が、バッチョ特戦隊を強襲したのである。
こいつらあてにできないどころの話じゃないぞ。やはり自力で脫出するべきではないか?
「むむ、オルティッシオ、貴様の意見にも一理ある。お姉様は、魔邪三人衆との戦いの傷を隠されておられた。我らに心配をかけまいとするご配慮であろう。お姉様は、お優しい方だからな。他にも我らの感知しない傷を負っておられるやもしれん」
俺は、こめかみについた配線を引き抜こうとするが……。
「あぁ、おいたわしや、お姉様。早くご回覆して頂きたいものだ」
「まことに。オルティッシオの奴、なかなか味な真似をしおる」
救助の要は、君達なんだよ!
バッチョは、特戦隊の精神的支柱であった。彼女を欠いた特戦隊は脆く、ガデリオ部隊によってまたたくまに瓦解されたんだったね。
誰か異常に気づけ!
「カミーラ様!」
配線がこめかみに付けられ、口には酸素吸入器がはめてある。
これは……。
「私もそうです。そのご尊顏を一刻も早く拝見しとうございます。ですが、ですが、ティレア様には、この機會に徹底的にご休養して頂きたいのです。天下覇権は、私達部下が進めておけばよいのです。ティレア様には、萬全の體制で天下に君臨して頂きとうございます」
穏便に済ませるには、外から開けて出してくれるのが一番いいんだけど。
俺が今までどれだけの時間気絕してたかわからない。だが、このまま悠長に水の中にいたら死ぬんじゃないか?
ん!? 今更だが俺、呼吸できているね。
殺される。
ど、どうしよう?
それは嬉しい。とても嬉しいよ。
あいつらどれだけ手の込んだ物を作ってんだ!
おかしいのはこいつらだ。
それとも感電死する危険を考え、三時間大人しく救助されるのを待つか。
邪神軍幹部がこれだけ勢ぞろいしているにもかかわらず、意見は均一である。「ティレア様を大事に」だ。水槽の中で大人しく治療されてろってさ。
聲も複數聞こえてくる。
いやね。無理やり暴れて、ドンドンと水槽を叩く手があるけどさ。
「我の計算では、あと三時間といったところだな。時間が來たら、メディカルマシーンを開放する手はずになっておる」
ここ水の中なんだよね。
待てよ。これって無理に外して大丈夫かな?
それはオルが聞き舍てならない言葉を発したのを聞き、理解してしまった。
「うむ。まったくオルティッシオめに教えられるとは……我もまだまだだ」
「カミーラ様、オルティッシオの言うとおりです。治療を延長しましょう!」
では、なぜこいつらがこんな暴挙に走ったのか?
誰でもいい。早く助けてくれ!
部屋にいるのは、ティムだけじゃないようだ。ドリュアス君も 変態 0; ニールゼン 1; もオルもいる。邪神軍幹部が勢ぞろいだね。
……まぁ、今更こいつらの言動に註文をつけるのも酷な話か。
実にタイミングがよかった。
そして、しばらくこいつらの會話を聞いてわかったこと。
普通の感覚では犯罪だよ。
三日だと!
正義の味方って、こんな感じなんだろうね。
それから……そうだ!
うんうん、そうだ、そうだった。俺の 記憶 0; ・・ 1; に間違いはない。
「も、申し訳ございません。ですが、一言進言致します。ティレア様の治療、三時間と言わず、一日、いや、三日は治療しましょう! そのほうがいいです。いや、そうすべきです」
とにかく事情はわかった。すぐに外へ出よう。
助けを呼ぼうにも、酸素吸入器が口にはまってて聲は出せない。かといって、この裝置がどれだけ電圧高いかわからないから下手に水槽は壊せないし。
軍団員達が、オルの意見にうんうんと頷いている。
常識的に考えて、命の危機だってわかんないの?
ふぅ~ある意味、俺の責任でもあるのかな。
拍手喝采だよ。
何が味な真似だ。苦い味しかしねぇよ。
ティム達に他意はない。俺が慣れない 戦 0; いくさ 1; で、體力を消耗し気絕した。それを必死で治そうとしてくれたのだろう。
おいおいおい、なんか不穏な流れになってるぞ。
オルが勢いよく前に進み出てきた。
俺が祈りを捧げていると、
エディムの部下であるガデリオが部隊を引き連れて戻ってくれたんだった。
ただの雑談なのに。
さらなるオルの爆弾発言に背筋が凍った。
それに、ここってなんか見覚えあるぞ。
「カミーラ様、再度進言致します。考え直しました。念のためです。三日の治療では短いかと。あと一週間は必要です。絕対にそうすべきです!」
ふ・ざ・け・ん・な!
メディカルマシーンとは、某野菜人が使用した治療回覆裝置だ。これの中に入れば、どんな大怪我を負っても完治できる。
ティム達は、本気で開発に取り組んでたみたいなのだ。
それでピンときたね。
奴ら、いつもはオルの意見などガン無視のくせに。こういう時だけオルの意見に耳を傾けている。「オルティッシオもたまにはいい事を言う」みたいな雰囲気になっているのだ。
そう思った瞬間、切れた。
酸素吸入器を口から外すと、手に魔力を込める。
お、お前ら、いくらなんでも……。
「私の回覆力、みくびりすぎだろぉおおおがぁあああ!」
俺はどこかのM字禿げの如く、叫びながら魔法弾を放ったのだ。
魔法弾は水槽のガラスを割り、そのまま部屋の外へ。
はぁ、はぁ、はぁ、死ぬかと思った。
感電死よりも先に衰弱死してしまうところだったよ。
俺はこめかみについていた配線をぶちぶち切り、割れた水槽から外へと足を踏み出したのである。
で、出られてよかった、本當によかったよ。
俺が放った魔法弾の餘波を受け、オルが壁際までふっとんでいた、それが若干気になったが……。
まぁ、許容範囲のうちだね。
気絕から目が覚めたら水槽の中って……。
ある意味、いじめ、いや、拷問されてたって言ってもいいよね。これくらいの処置は勘弁してもらいたい。
ふぅ~と深呼吸をして周囲を見渡す。
ティム達は、俺の登場にあっけにとられていた。そして、見る見る喜色に満ちた表情に変わる。
「お姉様! あぁ、ご無事ですか! ご無事ですか!」
「う、うんうん、大丈夫よ。大丈夫だから」
ティムが慌てて駆け寄ってきたので、優しく頭を撫でてやる。
「ティレア様! ティレア様!」
うんうん、もう大丈夫だからね。
「ははっ。ご心配して頂き、恐悅至極に存じます。されど、あのような雑魚鼠の羣れ、準備運動にもなりませんでした」
これはいつもの 中二病 0; ほっさ 1; だね。
いや、お前、風評を流すも何も実際そうだろう。ガデリオ部隊が倒してたじゃねぇか。実際に見たよね?
ティムが申し訳なさそうな顏でそう言ってきた。
「あ、あのね。事情はわかったけど……」
それから俺は、軍団員達に着替えを用意してもらった。
「いいのよ。ティムは私を思ってしてくれたんだから」
前世なら……。
「まさに。奴らの貧弱な事、この上なし。ちょっとつまむだけで、折れるわ、折れるわ。追い詰められた鼠ですら貓に一矢報いるというのに。最期の人噛みさえする気概もない。所詮は脆弱種ですな」
言葉もでねぇよ。
それに習って他の軍団員達も頭を下げる。
うん、謝るところ そこ 0; ・・ 1; じゃないからね。
ティムが頭を下げる。
いやいや、本當に俺の回覆力を見くびりすぎだぞ。
わかってる?
「そ、そうでした。いくら自信作とはいえ、大事なお姉様を実證実験もまだな裝置に入れるなど。我はなんて愚かな所業を……」
ふむ、魔都ベンズねぇ。また出てきたよ。
うん、大言壯語は変わらないね。
オルが部屋の隅でピクピク痙攣しているのに、誰も見向きもしないのはどうかと思うぞ。やった本人が言うのもなんだが、オルにも気を配ってやらないと。
「お姉様、それはかなり自信があります。このメディカルマシーンは、我の魔法技術に加え、魔界の七祕寶を使用しております。各地の良質な素材を収集し、我をはじめドリュアス達、邪神軍の最高頭脳が結集して作り上げました。これ一つで魔都ベンズの醫療器具數百倍の効果が表れるでしょう」
服を着替え、髪をドライヤーで幹かしてもらいながら、さらに詳しい事情を聞く。俺も怒鳴りはしないが、事が事なだけにやんわりと注意をする。
俺の記憶では、バッチョ部隊は悉くガデリオ部隊に捕縛されている。軍団員達は 櫓 0; やぐら 1; にこもり、全員でその様子を観察していた。
「え、え~と……」
あ、ギル君がまた治療をしてくれているみたいだね。問題無しだ。
「そうですね。まさに蟻と巨人ほどの差でしょうか。おそらく脆弱で愚かな人間種では、この価値を一バーセントもわからないでしょう」
何分、記憶があやふやなところがあるからね。
「なるほど。情報祕匿できゃつらを利用するのですな。お任せ下さい。諜報部隊に命じ、そのように風評を流しましょう」
俺がメディカルマシーンの件を指摘すると、平謝りをする軍団員達。
「大體そのメディカルマシーンって本當に効果があるの?」
本當にいつも通り。
大人として注意だけはするよ。
俺の與太話から、そんな大それた回覆裝置を作れるのだろうか。いくらティムが優秀でも、一介の學生である。それに、メディカルマシーンなんて代物は、どう考えてもこの時代にとってのオーバーパーツである。簡単に作れるはずがない。
俺が體力があったから笑い話で済んだけど、下手したら死んでた。
「もう終わったことだからいいよ。それで皆は無事? 怪我はなかった?」
つまり、このメディカルマシーンは、その発作でできた代物である。一體、どれほどの効果があるのやら、再度身震いがしてきたよ。
ティムは、誇らしげにそう話す。まるで天下に己以上の才能はないと言っているようだ。いや、実際、そう言っているね。一國を代表する王家の宮廷魔導師ですら、原人みたいに扱き下ろしているのだ。
「……わかった。よ~く理解したわ。私から言える事は一つ。こういう時は普通にベッドにでも寢かせてくれたらいいから。研究中のメディカルマシーンにぶち込むって……私死んでたかもしれないんだからね」
衰弱した人を水中に入れるなんて鬼だぞ!
ティムがわなわなと震えて涙を流す。
一體俺の話をどう聞いたらそうなるのだ。
「「も、申し訳ございません!」」
ティムは切実な顏で答えてくる。
ここまで熱烈にされたらねぇ。
「我は、決してお姉様の回覆力を見くびっていたわけではございません」
別に俺の回覆力を百だろうが千だろうが、どう見誤ってもいい。だけど、その手段を問題視しているんだよ。
數十人の大の男達と、可愛い妹まで頭を下げているのだ。
殺されかけたとはいえ、俺を心配してのことである。
ドリュアス君、 変態 0; ニールゼン 1; 達もおくれて駆け寄ってきた。
ただ、一言。
「じ、実験はいい! 今後気をつけてくれればいい。それだけよ」
俺は、三年寢太郎か!
「ティム、あなた魔都ベンズを比喩でたびたび話すけど、私はそこを知らないのよ。せめてここ王都の科學力と比較して說明してくれる?」
う、う~ん、けなげな表情で物騒な言葉を放ってくる妹に、俺はなんて言葉をかけてあげようか。
「で、ですが! 我がもっともっと早く人間を捕獲して、人體実験をしておれば、お姉様を危険な目にあわさずに済んだのです。この王都には腐るほどの実験材料がいたにもかかわらず……我は情けない」
変態 0; ニールゼン 1; は、決まり顏でそう答えてくる。
本當は、こんな非常識な事をしでかしたこいつらを叱って怒鳴ろうかと思っていた。だが、そんな気持ちは無くなってしまった。
一応確認しておこう。
「そ、それは……前にも申しましたが、魔族にとって回覆魔法のような聖魔法は最も不得意な分野です。魔法に秀でた我ですら、ほどほどの治療しかできませぬ。あの日のお姉様は、大量に體內魔力を消費しておられました。我の見立てでは、數年は目が覚めぬほどの消耗をしておられたのです。我はいてもたってもいられず、研究していたメディカルマシーンを起動した次第です」
だから全員無事なはずだが……。
「承知しました。全ては、お姉様のお心のままに。今回の件、本當に申し訳ございませんでした」
「お姉様、どうされました? 実験なら早急に始めます。とりあえずは、王都の市民を千人くらい――」
皆、一様に俺を心配してくれている。俺の復活を心より喜んでいるようだ。
「あのさ、バッチョ部隊は、ガデリオ部隊が倒してたよね?」
昨夜遅く、十七歳の少女を水中に放り込んで溺死させたとして、住所不定無職のニールゼン・ボ・クラシカル。同じく無職のオルティッシオ・ボ・バッハ他數名を逮捕しました。
同じ事を誰か他の一般人にしでかして、死人が出ようものなら目も當てられないからね。
こんな感じで捕まってたぞ。
軍団員達は、バッチョ部隊をいかに勇猛に倒したか、話題に花を咲かせている。
お前ら、本當に異世界でよかったな。
「そういえばさ、なんでティムは回覆魔法を使わなかったの? 魔法を使えば、こんな回りくどい治療をしなくてよかったよね」
調べによると、ニールゼン達は少女が衰弱していたので、水の中に入れて回覆させたかったと意味不明な主張を繰り返しております。加害者の中には未成年者も多數含まれており、警察は他にも餘罪がないか調べを進めております。
いつも通りなんだけど、なに捏造しちゃってんの?
「いや、あなた何言ってんの?」
「違うのですか?」
変態 0; ニールゼン 1; の心には、捏造しているという意識は欠片もないらしい。バッチョ部隊を倒したのは自分自身だと、本気の本気で思っているようだ。
他の皆も、 変態 0; ニールゼン 1; の堂々たる噓に當然のような顏をしている。
はぁ~お前ら……そこまでして、自分達の手柄にしたいか。
まぁ、でもバッチョ達を俺達が倒したって、噓の情報を流されるよりはましか。エディム達、吸血鬼の存在が世間にばれてもまずいしね。
「……そうね、その通りよ。祕匿を命じます。あなた達がせっかく頑張って倒してくれたのに、申し訳ないんだけどね」
「いえ、あの程度の雑魚鼠をいくら屠ろうと誇れるものではありません。全ては、ティレア様のお心のままに。情報祕匿を最優先致します」
変態 0; ニールゼン 1; はそう言うと、ドリュアス君と何やらヒソヒソと打ち合わせを始めた。
いくらでも風評を流してくれ。
どっちにしろガデリオ部隊がバッチョ特戦隊を倒しているシーンは、大勢の市民も目撃しているのだ。當然の事を當然に話しているだけなのである。
ふ~それにしても……。
俺は、自分が入ってたメディカルマシーンを見る。
特殊な培養液を入れていると言われてもおかしくないほど不思議な色をした水。ここが魔法世界でなく科學世界と言われてもおかしくないほど機械機械した裝置。計測器らしきものもあちこちに設定してある。
中二病の妄想產物とはいえだ。
冷靜になり改めて観察する。
このメディカルマシーン、素人のおもちゃにしては出來すぎているよね。
「あのさ、一つ興味本位で聞くんだけど、この裝置にいくらかかったの?」
俺はメディカルマシーンを指差して訊ねてみた。
「ほんの百億程度ですよ」
オルが自信満々に腕まくりをして、力瘤を見せてくる。
百億ゴールドも無駄にお金を使って。
「ふふ、では何が問題なのでしょう? ティレア様のご許可が下りているのです。皆に不平などありえませぬ。仮にティレア様の裁可に不平をほざく不遜な輩がいたのなら、不肖オルティッシオが成敗してご覧に入れます」
オルがびくびく震え、お伺いをたてるように聞いてきた。
百億ゴールドを越える額を使うって……。
「はっ。正確には、百二億五千三百二十萬三千七百ゴールドです。詳細は、特殊培養液に五十七億九千萬……」
「オ、オル、百億ゴールドも勝手に使って怒られない?」
なに、これ?
ドリュアス君が一冊のノートを手渡してくれた。
「ティレア様、これを」
軍団員達はまたもやうんうんと頷いている。
この先、どうしよう?
お前ら本當に俺を悩ませるの好きだな。
オルに呼ばれたギル君が算盤を弾くが如く、正確にその値をそらんじていく。
「はっは、この程度の額、ティレア様のお命に比べられません。いえ、比べる自體おごがましい行爲でございます」
「いや、私は怒ってないよ」
これは噓じゃない。
こと金にかんして、オルはとんでもない額を使っても平気な顏をしているのだ。
「あ、あなた達、こんなおもちゃにそれだけのお金を使って何も思わないの?」
効果も不明だ。少し気持ち良かった気もしないではないが、普通に寢るか回覆魔法をかけたほうがいいに決まっている。どっちにしろ俺がぶっ壊したからね。その殘骸しか殘っていない。
俺が頭を抱え悩んでいると、
「も、申し訳ございません。正確ではありませんでした。ギル!」
オルの親父さんをはじめ家族、親戚、オル家の部下達、その他關係者……もろ影響を受けているよね。
未來の 治療器具 0; メディカルマシーン 1; を開発していたと正直に答えるか?
「誰にですか? も、もしや、ティレア様は百億ゴールド消費した件でお怒りになられてるのでしょうか?」
そうなったらなんて答えよう?
いやいや、問題大有りだろ。
いや、そうだよ。人の命は何よりも尊い。
「そう、たった百億――ってひ、ひゃ、百億ゴールド!? う、噓よね!」
だいたい俺が許可を出せばいいの? というかその物言いだと、俺に全責任を被せてきてないか?
こ、これは……。
こんなおもちゃを?
いつかその出所を調査されたら俺の名が出てくる。
これ、絕対オル家の使途不明金になっているよ。
ギル君の治療によって復活したオルが、気軽に答えてくれた。
顏を上げて、ドリュアス君の顏を見る。
俺もそう思っている。その信條は大切にしろよ。
何度もオルに貢がれた俺だからわかる。
わかった。わかったよ。
何気なしにペラペラとページをめくって読んでみる。
別に同意はしていないけどさ。百億ゴールド稼ごうって思ったら、それこそ人生全てを懸けても終わらないぞ。
そ、それを、このバカはこうも簡単に……。
たださ、某実業家は「金は命より重い」って、言い切った奴もいたからね。
ドリュアス君は、にこりと笑顏で返してきた。