第64話「果然是緹蕾婭吧3」0;生禸1;
《緹蕾婭的煩惱》 · 裏奈使徒 · 1.1萬 字
ドリュアス君達に盜んだ金の使い道を考えるように指示を出して、一週間が過ぎた。
ちゃんとやれてるだろうか?
不安でしょうがない。
オルが盜んだお金については、國に返卻せず俺達で有効に使う事にした。俺達で有効に使うって言うと、何か誤解を招きそうだけど、違うよ。これは王都住人が快適に暮らすために使うという意味だ。
國にお金を返卻できない以上、こうするしかないよね?
盜んだお金なんだから、しかるべきところに返すべきだって非難する人もいるかもしれない。実際、俺も最初はそう思った。でもね、馬鹿正直に自首したら、オルは確実に牢獄行きの死刑だ。王國法に照らし合わせると、そうなるらしい。
オルは、俺達姉妹のために罪を犯した。
竊盜罪、強盜罪、騒亂罪等々……。
若干、いや、かなり暴走した結果とはいえ、俺やティムのために行動したのだ。勇気を持ってエリザベス達に反抗し、俺達の味方をしてくれた。そんな恩人を、官憲に突き出すような真似はしないよ。
ま、まぁ、盜んだお金が実は百億ゴールド以上あったと聞いた時は、思わず倒れこみそうになったけどね。
いや、それ、天下の大泥棒も顏負けの金額だぞ!
何、お前ら冷靜にしてやがる!
前世の加害者重視の法律で裁かれたとしても、どれだけの刑になるのやら……。
だ、大丈夫、大丈夫。
どれだけの罪であろうとも、市民ファーストでインフラ整備をすれば問題ない。もともとエリザベスが民を苛めて不當に榨取し、溜め込んだ財貨だ。
そ、そうよ。俺達が本來の正しい使い方をするってもんだ。
不安げになった気持ちを一蹴し、邪神軍地下帝國の階段を降りていく。
皆、どんな感じかな?
俺が使い道を指示したお金は、市民から集めた稅金みたいなもの。無駄な出費をしないように、口をすっぱくして注意したんだけど、理解できただろうか。
今回、オルが盜んできたお金は、王都復興のための資金だ。通稱、復活資金と呼んでいる。復活資金の運用については、ドリュアス君率いる參謀チームと、オル達第二師団チームで、計畫書を練り上げてもらっている。
オルもやる気に満ちてたし、案外うまくいったかもしれない。
また說教するか?
ただオルの分はない。さきほどの件が相當頭にきているみたいだ。
ん!?
「ティレア様、まだ徹夜七日目です。この程度で音を上げるような軟弱者はここにはおりません。私が最も信頼する部下達ですから」
仕方がない。オルの分は俺が――あ、ギル君が自分の分をオルにやった。
エディム、気遣いができる子。
「ティレア様、今日はいかがされましたか?」
オルが、入り口から出ようとする俺を目ざとく見つけて挨拶をしてきた。
「お任せください。皆、ティレア様が提唱する死民ファーストを頭に叩き込んでおります。ティレア様がお住まいになるに相応しい帝國を作ってご覧に入れます」
で、考え抜いた結果……。
オルは、皆に攻められ涙目狀態。
俺は片手を少し上げて挨拶を返す。
電話もどきを使って、魔法通話している者達。
「やぁ、オル」
オルは自信満々な顏つきである。自分が間違っているという認識はこれっぽっちもないようだ。
報告書を何枚も手元に置き、何やら難しい會議をしている者達。
オルは暴走するから、言動には注意しなきゃいけなかったのに。
そして、ギル君や他の第二師団の面々の分もついでに淹れてきてくれたようだ。皆、長時間頑張っているようだから、喉がかわいてたと思う。
オルは気にしていないようだけど、自分の分がないとわかったらまたトラブルだね。
やる気になっているのだ。まずは出來上がった計畫書を見てからにしよう。
そっと扉を閉め、外へ退散しようとすると、
まるで戦爭といってもいいぐらいに、ワーワーと指令が飛び交っていた。
もともとは、オル達第二師団に任せるつもりだった。オル達第二師団の奴らが撒いた種だからね。竊盜という罪を犯した以上、最後まで責任を持つのが筋だ。皆のために働き、少しでも罪を清算できればいいと思ったんだけど……。
「うん、なんか様子を知りたくて……ちゃんとやれてる?」
さらに付箋がやたらめったについたファイルがどかどかとテーブルに置かれていた。
「貴様、ティレア様のご命令を無視する気か?」
それは、けじめを取る意味もあるし、オル自身のためでもあるのだ。今は、高揚してなんともないようだけど、いつか大金を盜んだ罪悪感に苛まれる可能性だってある。
いや、皆頑張っているのは事実だ。ここで水を差すわけにはいかない。
とりあえず頑張っている皆にお茶でも淹れてあげるか。
慌ててオルの後を追いかけると、オルはエディムといた。
そうだよね。必然的にギル君の分だけお茶がない事になったからね。
おぉ、すごい。
「せっかくだからお茶でも――」
ドリュアス君達參謀チームにも計畫案を考えてもらうようにしたのだ。二つのチームで競い合えば、よりよいものができるんじゃないかってね。
オルだしね。
これだよ。だから確認したかったんだ。
ホワイトボードにはびっちりと難しい図式が書き込められている。
「はっ。勿體無きお言葉です。ティレア様のお心遣い、皆感激に打ち震える事でしょう。不眠不休で頑張りますので、どうぞ吉報をお待ち下さい」
オルはエディムが持ってきた報告書を亂暴にひったくると、そのまま地面に叩きつけた。書類はインクを馴染ませたばかりだったようで、衝撃で滲み判別不可能になっている。
「當然だ! エディム、ティレア様をやきもきさせるとは何事だ。さっさと行ってこい! このトンチキ、人數もまともに數えられんのか!」
でも、こいつらの事だから七日徹夜はともかくとしてだ。一晝夜徹夜とか二、三時間しか寢てないとかありえるかもしれない。
確かに俺が総指揮を執るといったら、皆やたらとテンション上がってたけどさ。
「それどころではない。ティレア様がお茶をご所望だ。すぐに淹れてこい」
まずはオル達がいる第二師団を視察しよう。
「えっ!? いや、でも、酷い。それ作るのに七時間もかかったんですよ!」
俺がいたら邪魔になるよね?
エディムは無機質な聲で返答すると、そのまま給湯室へと向かった。
「本當に無理しないでね。休息を取るのも大事なんだから」
その様子を見て、エディムが気まずそうにしていた。
それから……。
視察するつもりだったけど……。
褒めてやらねば人は動かないからね。
「あ、ちょ、ま――」
あ~完全に邪魔しちゃった。
うん、寢てないアピールはいいから。
「そう、がんばってくれて嬉しいよ。でも、無理はしないでね」
本格的すぎる。
まずは俺の分。
お前まだ市民ファーストわかってねぇな。なんで市民ファーストを主張してんのに、俺の帝國になるわけだ。
ただ、あまり舐めた計畫書だと怒鳴っちゃうかもしれないけど。
この豬突猛進野郎め。話を聞けって。
エディムには悪いことをしたなぁ。
王都市民のために働いておけば、少しは罪悪感も軽減できるだろうって。
これに、ドリュアス君を始め全員が反対した。オルなんかに任せるとお金をドブに舍てるようなものだって。
ニューヨークのウォール街、はたまた東京株式市場のような體を見せている。
「オルティッシオ様、ご要望の報告書を持ってきました。サインを――きゃあああ、何するんですか!」
オルは俺の制止を待たずして、部屋の奧に走っていく。
「ここにいたか、エディム」
オルがそう言って深々と頭を下げる。
豪華なティーカップに超がつくほどの高価な茶葉で淹れたティーが注いである。
「お茶だぁああ! ティレア様はお茶をご所望されておられる!」
特に、ドリュアス君の非難は辛らつだった。オルもドリュアス君に対しては敵愾心を剝き出しにし、これでもかってぐらいくってかかってたけどね。
ふ~まぁ、でも今更か。
「ギル君の分は私が淹れてくるよ」
オルに責任を取らせる。
エディムがお茶を淹れて持ってきてくれた。
第二師団の駐屯室に着き、ドアノブに手をかける。そっと二十センチ程度ドアを開き、中を覗く。
うん、だから休めって言ってんだよ。本當、こいつは何を聞いてるんだ?
なに、これ?
「エディ――ム、いるか! とくとこい!」
「これはティレア様」
「……いえ、すぐに淹れて參ります」
ってか絕対ちょい俺スゲー話を入れてくるな。
ギル君、まるでオルの女房だね。甲斐甲斐しすぎる。
ただね、オルはよく暴走する。ドリュアス君達の心配もあながち間違いではないのだ。責任は取ってもらいたいが、金を無駄にするのでは本末転倒である。
「い、いえいえ、そんな! ティレア様のお手を煩わせるわけにはまいりません。私が行って參ります」
またもやオルの罵聲が飛ぶ。
エディムはオルを一瞬睨みつけると、そのまま給湯室へと走っていった。
「オル、あまりエディムに酷い事言っちゃだめだよ」
「なんとお優しい。半魔族如き、掃いて舍てるほどの存在であっても、ティレア様はお気遣いをされる。これほど慈愛に満ちた君主に仕えられ、このオルティッシオ感涙に耐えませぬぞ」
オルの言葉に軍団員達もうんうんと頷いている。
そして、これほど偉大な君主のお手を煩わせようとしたエディムに非難が集まっていく。
うん、何かがおかしい。
こいつらの感覚は今だに慣れない。
ただ俺が餘計な事を言ったせいで、またエディムの立場が悪くなったみたいだ。
エディムが淹れてくれたお茶をすすりながら、いたたまれなくなってくる。
よし、もう黙ってよう。俺が行動する事でいらぬトラブルを起しているみたいだ。せっかく王都市民のために頑張っているこいつらの邪魔をしてはいけない。
そして、休憩も終り皆仕事に戻った。
もちろん俺がいることで、ずっと俺の世話をしてくる軍団員達に「私の事はいいから、仕事に戻って」と何度も命令した後だ。本當に面倒くさい奴らである。
それから皆の様子を見ていく。俺が見ているせいか、皆のテンションが高い。
特に、オルだ。できる奴だとアピールしたいのかやたらと聲を上げている。
「エディ――ム! 貴様、田園調布の開発報告書はどうなっている? 早く提出しろ!」
「……オルティッシオ様、わかってていってますよね? それとも天然ですか? その報告書ならさっきあ・な・た自身でぐちゃぐちゃにしましたよね?」
「ん?」
「んじゃないです。あなたがさっきから足で踏んでいる書類ですよ!」
エディムに指摘されて、オルが足を上げて書類を拾う。
エディムは、プルプルと肩を震わせている。爆発寸前、怒り心頭の様子だ。これは止めたほうがいいかな。
「ティレア様、申し訳ございません。お恥ずかしいところをお見せしました。このような不手際、ティレア様がお怒りになるのは最もでございます」
富國の一環なのだろう。
「エディム、貴様、恩を仇で返すか!」
「貴様、人間如きが作った書物が信用できるか! 直に確かめて來い」
當の本人はケロッとしている。
「エディム、聞いて」
ただ、エディムの俺への直訴にかんしては、目を丸くして驚いているようだ。そして、狀況がわかったのか、見る見る顏を紅潮して怒りの形相に変化していった。
「そうだったか。では、原紙でなくても構わん。コピーのほうでいいぞ」
「勿論ですよ! 有識者に調査させましたし、土壌調査書でも二重丸の結果が出てます」
「貴様は本當にティレア様を蔑ろにしているな。以前ティレア様が仰っていただろうが! 肥沃な土地は『あるかり性』。『じゃくさん性』では作物は育たんのだぞ。いいか、田園調布が『あるかり性』の味か、その小汚い舌で調べて來い!」
……なんかまずい雰囲気になってきた。
やばい。これは完全にアウトだ。
オルとエディムの喧譁の仲裁は幾度となくやってきた。だけど、今回はけっこうやばい部類に入るかもしれない。
「では、ちゃんと土の味を確かめたか?」
普通はね。吸血鬼に嫌われたら、びびるというか恐怖してもおかしくないのに。
これも豊かな穀倉地帯になったら、王都市民にとって大きなプラスとなるからね。
今回の田園調布の開発だっけ?
「ふむ、見えぬな」
「わかってます」
吸血鬼のエディムが暴れたら、尋常でない被害が出てしまう。
俺の葛藤をよそに、オルとエディムの會話は続く。
どうしようか?
「い、いや、意味わかりませんって。大體『あるかり性』ってどんな味なんですか?」
オルが再び深々と頭を下げる。
「え、えっと何かな?」
「はぁ?」
それにしてもオルの奴……。
やっぱり說教したくなってくるな。
いや、でも俺がでしゃばると餘計トラブルに発展するかも。
「そうか。無知な貴様にはそこから教えねばならんか」
オルの「五感で確かめろ」は言い過ぎだけど、調査はじっくりやるべきだ。開発予算は有限である。安易に決めて無駄にしてはいけない。
「一応、視察はしました。自分の目である程度は調査してます。肥沃でしたよ」
「き、貴様! 能無しのお前に仕事を與えてやったのはこの私だぞ。何たる言い草だ」
エディムは下を向いてうつむいたままだ。小刻みに揺れていた肩の震えが止まっている。ただ、これは怒りが治まっているというよりも……。
「いや、働いてるじゃないですか! 二十四時間、休む暇もなくですよ!」
オルが土を鷲摑みにして、エディムの口の前に持っていく。
表情が見えないからなんともいえないけど……これは導火線に火がついているかもしれない。少しばかり、落ち着かせるような言葉をかけてあげるか。
あ、嵐の前の靜けさ?
「ちっ。仕えぬ奴だ。仕方が無い。口頭でいい。それで田園調布の土壌は、本當に肥沃だったのだろうな。邪神國の穀倉地帯を決める重要な起點だ。開発資金も無駄にはできん。つまずきは許されんぞ」
「土の味を確かめたのかと聞いている! 見るだけでは不十分。五感で確かめろ。開発資金は、ティレア様の大事な資金であらせられる。常時もそうだが、今回は特にティレア様からの訓示があったのだ。一銭たりとも無駄にするな」
いや、確かに無駄にしないように言ったけど、お前さ、前提條件である市民ファーストを守ってないだろうが!
俺は続けてとばかりに腕を組み、二人の様子を見守る。
「私は冗談が嫌いだ。さぁ、ぐずぐずするな。これがあるかり性の味だ」
いやいや、だめだ、だめだ。
「ティレア様、どうかお聞き下さい。臣エディム、ティレア様、カミーラ様の天下覇権のため、ここにオルティッシオの更迭、いや、死刑を進言します」
「違う違う。私に謝るんじゃない。さっきから見てたら、エディムが可哀想でしょ。皆、仲良くしないと」
オルはギル君に命令して、何やら土を持ってこさせた。
やっぱり俺がトラブルを招いている?
「な、何するんですか! やめ――ひぃ、べっ、べっ! 酷い。つ、土が口の中に」
「さぁ、食べろ」
さすがのエディムも切れるんじゃ……。
俺は、コクリと頷く。オルは満面の笑顏で嬉しそうだ。
エディムの真剣な表情、これは本気かもしれない。死刑は言葉どおりの意味じゃないとしても、もう友達づきあいできない。絕交宣言はしてるだろう。
「オルティッシオ様、土の味ってなんなんですか! ふざけないでください。こっちは名のある農學博士を集めて調査したんです。田園調布は王都で一番肥沃な土地です。納得してください」
それも俺が考えなしに話した雑談のせいである。
「ティレア様!」
片膝をついて、すごい迫力でそう進言を奉ってきた。
いや、それね。違うから。
「くっ。そりゃそうでしょ。あんなに叩きつけたら當然、字は滲むわ。わ、私が何時間もかけて作った書類を!」
オルがチラチラと俺を見ながら、熱弁する。國を愛する烈士の如くだ。
「寢言も大概にしてください。私には私の仕事があるんです。それなのにアンタに奴隷のようにこきつかわされて」
おいおい、まだそんなに煽るか。
ちらりとエディムを見ると、
オルは持ってきた土を無理やりエディムに食べさせようとしている。
とうとう切れたみたいだね。
いや、俺に謝られても困る。
「コピーなんてありませんよ。あの納期の短さでどうやってコピーしろと言うんですか!」
「オル、いい加減にしなさい! エディムが困ってるでしょ」
叱ってばかりでは人は成長しない。この一年でよくわかった事だ。俺が何度注意しても、こいつらの中二病は一向に治らなかったからね。今年の俺は、スタイルを変える。そう、山本五十六流で行くのだ。
「馬鹿者がぁ! 保存用、使用用、貸出用、三つ作るのは常識だろうが! 貴様はティレア様のお言葉をなんと心得ている!」
クールダウンさせるのが遅かったみたいだ。
「本當か? ちゃんと確かめたか!」
すぐに止めよう。
俺がお金を無駄にするなって言ったから、アピールしてるんだろうな。
「承知しました。不甲斐ない半魔族とはいえ、ティレア様の手駒の一つです。どうか今しばしのお時間を頂きたい。必ずやこのダメ吸血鬼を少しはマトモにしてやろうと思います」
それに邪神ファーストであっても、お金を無駄にしないという點においては一緒だ。無益な公共事業をして、國民の血稅を無駄にするなんてあってはならない。
エディムが堪えきれないように口火を切ってきた。
「じ、冗談ですよね?」
「恩? ふざけないでください。何度でも言います。あなたには貸しがあっても決して恩などありません」
オルの言葉を聞けば聞くほど、ツッコミたくてしょうがない。
「何が奴隷だ! 奴隷なら奴隷のように働いてから文句を言え!」
「ふん、何當然の話をしておる。吸血鬼は睡眠不要だろうが!」
「だからって一日は二十四時間しかないのに。アンタの仕事の振り分けは無茶苦茶だって言ってるのよ。これだと二十七時間働いても追いつけない」
「貴様ぁあ! たかが三、四時間オーバーしたぐらいで情けないぞ。気合だ。忠誠心が足らんからそんな泣き言をほざく。悪鬼討伐でもそうだった。貴様は役立たずの腰抜けだ。少しは、私を見習ったらどうだ」
「……喧譁を売ってますよね? いや、もう売ってなくても買いますけど」
「ふん、貴様如きが喧譁を買うだと? 面白い。どこからでもいい。かかってこい! 殺して魚の餌にしてやるわ!」
「上等!」
エディムが何やら魔力を高め始めた。
わ、わ、わ、本當にやばいぞ。
「エディム、落ち着いて」
慌てて二人の間に入り、仲裁をする。
「テ、ティレア様……」
拳を下げたエディムと目があった。
そして……。
いきなりエディムがこちらに向かってきたのだ。
もしかして矛先が俺に向いてる?
オルの暴走をずっと黙ってみてた俺に腹を立てたとか?
「あ、あの、少し待って」
「ティレア様ぁああ!! こいつ殺してください。もう限界なんです。うんざりなんです!」
エディムが俺の胸に飛び込んで、わんわん泣き始めたのだ。
「き、貴様、無禮だぞ」
出るわ、出るわ。愚癡の嵐。
あれだけ興奮してたエディムのお願い……嫌な予感ビンビンである。
いや、なにその自信。この究極の選択で、お前を選ぶって思ってんの?
そんな眼で、エディムが俺に究極の選択を迫ってくるのだ。思わずうんと言いたくなってしまう。
「ティレア様、こういう口だけの半端者は邪神軍に必要ありません。知力、體力ともに劣っている愚図でございます。どうかこのオルティッシオめに一言ご命じ下さい。邪神軍のカスを掃除してご覧に入れましょう」
や、やめて。そんな顏をしないでくれ。
「オル、いいから」
エディムが嗚咽する。しばらく頭を撫でてやる。すると落ち着いたのか、泣き聲は止まった。
エディムはえぐぅ、えぐっと嗚咽を交えて話をする。
別に究極の選択をするわけではないが、この場合はエディムを……。
「だからそう言ってるでしょうが! 言葉もわからない?」
「オ、オル、あなたね」
「ティレア様、お願いがあります」
「ひっく、ひっく、えぐっ」
エディムが怒濤の勢いでまくしたててきた。
本當に普段通りだ。
「「では、こいつの処刑を!」」
あちらを立てれば、こちらが立たず。
もう目で人を殺せそうなぐらいにオルを睨んでいる。
憮然とそう言い放ったのである。エディムの発言を鼻で笑っているのだ。
俺がどんなにオルのいいところを話してもわからない。いいオルティッシオなどいない。いいオルティッシオは死んだオルティッシオだと言う始末である。
「冗談だよね?」
エディムとオルの言い合いはヒートアップしていくばかり。
お、俺は、子供の味方なんだ。
オルの眉は下がり、半泣きの様相を見せていた。
オルを見てみる。
うっ。なにその哀愁溢れる表情。
オルティッシオが酷いだの、オルティッシオがバカだの、オルティッシオが卑劣だの。
そして、
大の男が涙する。なるほど。ここまで哀れだと女子供は關係なかった。オルは邪神軍の皆から邪険にされている。ここで俺まで袖にしたら自殺しちゃうかもしれない。
「くっ。そういう意味ではない。とにかくアンタみたいな馬鹿が邪神軍にいたら、ティレア様、カミーラ様にご迷惑だって言ってるのよ」
「はっは、何をほざくかと思えば、半魔族め、片腹痛いわ!」
「私を殺すか、あいつを殺してください」
オルとエディムが同時に聲を発する。同時に互いを指差していた。
「ほぉう、では力が無いのは認めるのだな? 少しは半端者としての自覚はあったか」
これだけのエディムの殺気だ。當のオルはブルって失禁してもおかしくない。
いや、二人して身を乗り出してこないでよ。
「ティレア様、一人ぐらい雑用が消えたところで任務に支障はございません。どうぞ私の事は気にせず、この不忠者をばっさりとご処斷ください」
それどころか、
いや、なにその顏。
「體力はともかく、アンタに知力うんぬんを言われたくないわね」
とんでもない要求をしてきやがった。
俺に殺気を向けていないのはわかっているのに、ちょっと怖いぞ。
オルは、しばらく靜観を決めこんでいた。そこに動揺は微塵もない。平然としていた。
「うっ、うっ、テ、ティレア様」
俺は基本的に子供と女性の味方だからね。エディムは女の子だから、どちらにも當てはまっている。
不承不承に従うオル。
「ですが!」
エディムは俺から離れると、居住まいを正し頭を下げてきた。
はい、見舍てられないね。
俺がすぐに返答をしなかったのを不安に思ったのか、オルが子犬のような情けない顏に変貌した。
俺は、女性の味方だ。斷固としてポリシーは変えない!
とにかくそんなオルだ。當然の如く、エディムを処刑しろと言う。
「ティレア様、お願いです。どうかオルティッシオを殺してください。こいつの存在は、百害あって一利無しです。ティレア様、よくよく思い出してください。こいつが今まで役に立ったことがありましたか? ないです。皆無です。私の記憶する限り、皆の足を引っ張っている姿しかありません」
「テ、ティレア様?」
「オル! 私の言う事が聞けないの?」
オルもエディムに負けじと言い返す。
「私は本気です」
「は、はっ」
「ふ、二人とも落ち着いて」
「わかった。わかったから。落ち着いて」
オルよ。
「な、なにかな?」
そんな舍てられた子犬のような顏をされても……。
エ、エディムさんの殺気が怖いよ。
「よ、よし、二人の気持ちはわかったわ」
吸血鬼を恐れない。それどころか馬鹿にしている節さえある。大物なのか小物なのかわからなくなってくるよ。
「なんだと! 半魔族如きが、私を馬鹿者扱いする気か!」
俺はエディムの頭を良し良しとなでながら、エディムが落ち着くのを待つ。
俺はどうすればいいのだ?
あ~困った。本當に困ったぞ。
俺が困った、困ったと頭を悩ませていると、
「お姉様、いかがされましたか?」
「あ、ティム」
「ティレア様、ご機嫌麗しゅう存じ上げます」
「ドリュアス君も」
ティムとドリュアス君の登場である。
ティムは、銀髪を靡かせて相変わらず可愛い。ドリュアス君もイケメンボイスは健在だ。この二人、本當に絵になるね。貫祿もある。さっきの登場シーンもズゥーンと重厚音が響くぐらい迫力があった。
「お姉様、何かお困りでしたら、我にお申し付けください」
どうしようか? ティムにも相談してみる?
ティムも二人の友達だしね。
「いやね、オルとエディムがさ――」
「ん? お前達、もしやお姉様を困らせるような愚かで不埒な真似をしでかしたのではないだろうな」
「「め、め、めっそうもございませんっ!!」」
ティムの問いに高速で首を橫に振る二人。
いや、そんなに首を振ったらもげてしまうよってぐらいにぶんぶんと橫に振っている。
あれれ、あんなにいがみ合ってたのに。
息あってるね。
ミレスちゃんも言ってたけど、この二人似たもの同士なのかも。今はボタンの掛け違いで仲たがいしているけど、本當は馬が合うのかもね。
「お姉様、この愚か者共が何かしましたか?」
「ぎ、御意。今もエディムと刎頚の友として交わろうとしていたところでございます」
これは追いかけたほうがいい?
「本當か?」
ふむ、愛する妹からの信頼の問いにどうしてノーと答えられようか。もちろん信じていると答えた。
「いい訳か? 今もくだらない諍いでお姉様に直談判してきておろう?」
「お姉様、我は本気です。どうもこやつらはお姉様に対し、馴れ馴れしい気安さを持ち合わせております。偉大な主君を貶めるこやつらを我は許せません」
「お姉様、どうか我を信じて頂けませんか?」
俺の許可を得たティムはエディムとオルティッシオの襟首を摑んで居室を出て行った。
「ティム、冗談にしては笑えないよ」
「はい、これ以上ごちゃごちゃ文句を言うようであれば、少しは仲良くなれるように互いの背中を縫い付けてやろうかと思います」
「いやね、二人の仲が悪くて困ってるのよ。どうにか仲直りさせたいんだけど、何かアイデアない?」
「えっ!? でも……」
「どうするの?」
「カ、カミーラ様、お待ちください。決して、決してティレア様を貶めるような真似は致しません」
ティムの過激発言を聞いてガチガチと震える二人。
「お、おぉ、そ、その通りだ。カ、カミーラ様、私とエディムは無二の親友でございます」
うん、やっぱり息があってる。震え方の振動まで一緒だ。
「ほぉ~そうか。刎頚の友と來たか! 面白い。その信頼見せてもらうぞ。お姉様、こやつらを少しばかりお借りしても宜しいですか?」
「ち、違います。誤解でございます。諍いなどありません。私はオルティッシオ様を尊敬してます。仲は良好でございます。ね、ねぇ~オルティッシオ様」
ティムに連れて行かれるエディムとオル。まるでドナドナに連れて行かれる小牛に見えたのは気のせいだろうか。
「そうでしたか。お姉様を困らせるなど、言語道斷です。本來であれば、拷問の上で処刑するところですが、お姉様たってのご希望です。我にお任せください」
後ろで涼やかな顏で見送っているドリュアス君に聞いてみよう。